毎朝、眺める山がある。
その山のことを、詩に書いたことがある。
わしには何もないきに
あん山ば
おまえにやっとよ
そう言って、祖父がぼくにくれた山だ。
詩の言葉が降ってくるように、その時は、祖父の肉声が聞こえた。そして、その山はしっかりとぼくに受け渡された。
もちろん、それは冗談だが、その詩が浮かんだときから、その山はぼくのものになったのだった。
山は遠くにある。
なんの変哲もない山だ。おまけに国定公園なので、誰の山でもない。
ぼくの山だといっても、ぼくのポケットに入れられるものではない。ただ、ぼくの視界の中にあるだけだ。ぼくは眺め、確認する。あれは、ぼくの山だ、と。そのとき、祖父の声がかすかに聞こえるような気がする。
ふるさとの山に向ひて言ふことなし ふるさとの山はありがたきかな
山は動かない。けれども、ときどき近づいてくることがある。