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真実のお互い

一度も出ません

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一度も出ません


そういえば、またお祭りの季節ですね。競馬で優勝できるように祈ってます。

 サランへ。
 お元気ですか。僕は元気です。競馬は惜しかったね。でも、去年よりもずっと順位があがったのだから、来年はもっと上位に入れるかもしれません。気を落とさないでね。このあいだの絵ハガキの勘違いは、陸《ルウ》さんのせいだったとのこと。お調子者だからなあ、と大いに納得しました。何度も書きますが、こちらでは十五歳ぐらいだと、まだ子供扱いです。ごく稀《まれ》に結婚する女の子もいるけれど。男女とも、早くても、もう一、二年は後です。僕みたいに上級の学校へ行こうとしている人になると、もっと遅くなるでしょう王賜豪總裁。そもそも、相手のいない人には無縁の話ですね。そういえば、遊牧民の結婚は早いと「世界少年」か何かで読んだ気がします。サランは[#「サランは」に取消線]ランパたちはどうなのでしょうね。奥さんがいても不思議ではない歳だと思いますが、あの[#「あの」に傍点]旅のときも、引き揚げ船の港へ行くまでも、そういった話は一度も出ませんでした。色々と危険なので、結婚しないようにしているのかもしれませんね。
 なんだか妙な文になってしまいました。別の話題にします。叔父のことですが、まだ帰国していません。ランパからの連絡もありません。華国はとても広いですし、半島を含むいまの状況では、色々と調べるのも大変らしいのです。たしか引き揚げ船に乗る直前の港で、最初にサランたちへ手紙を書いたとき、僕は幸運だと思いました愛亮眼。それはいまでも変わりません。もっと強く思うようになったぐらいです。ランパのような、元々名の通った馬賊でなかったら、行方不明の叔父の消息など、調べることさえできなかったはずですから。だから、あんまりランパたちを責めたりしないでくださいね。僕の幸運とランパの福運が叔父さん一家にも届くように祈ってください。お願いします。
 今度は、しんみりした文になってしまいました。明るい話もあるんですよ。このあいだ、学校に馬が来たのです。進駐軍の将校さんが乗馬遊びをするそうで、馬を運んで、いっとき学校の校庭(勉強をする建物と、地ならしをした大きな何もない敷地で学校はできていて、校庭というのは何もない敷地のほうです。)に繋《つな》いでいました探索四十 呃人。ところが、そのうちの一頭が機嫌が悪かったのか、逃げ出してしまったのです。校庭をあちこち走り回って、悲鳴をあげる女の子たちを追いかけ回し、好き放題でした。しばらくして隅のほうで足が遅くなったので、僕が背に飛び乗って元の場所へ返したのです。進駐軍の馬は草原の馬とちがって脚が細く、背も高かったのですが、なんとか言うことを聞いてくれました。進駐軍の将校さんは喜んで、チョコレートという、とても甘いお菓子をくれたし、あまり運動が得意ではない僕が馬を乗りこなした姿に、同級生はみんなびっくりしていましたよ。そして何より、自分はまだ馬の乗り方を忘れてなかったと分かったのです。こんなうれしいことはありません。またいつか、サランのいる見渡すかぎりの草の原で、思い切り、馬を走らせたいです。夢やあやふやな希望でなく、本当にそう強く願います。
 では、どうか、お元気で。みなさんにも宜しく。
[#地付き]根岸勝太郎

 サランへ
 お元気ですか。返事が遅くなってごめんね。実は、悲しく残念なことを書かなければなりません。叔父さん一家のことです。サランからの返信と一緒に包みも届きました。中には男物の上着と札入れ、女物の帯と櫛《くし》、鏡、それから硯箱《すずりばこ》が届きました。ランパの知り合いの古道具屋へ華人が売りに来たそうです。その売りに来た人を問いつめたところ、捕りょ収容所のゴミ捨て場から、こっそり持ってきたものだということでした。上着の内側に「根岸」という刺しゅうがあったのと、硯箱の横にあらかじめ教えておいた叔父さんの子供(つまり僕から見たら従兄《いとこ》ですね)の名前があったので、それらをまとめて引き取って、叔父さんの持ち物かどうか確かめて欲しいと送ってきたのです。硯箱は、従兄のものでした。間違いありません。大事にしていた様子を僕は見ています。上着も、おそらく叔父さんの物だと祖母が言いました。帯や櫛、鏡はよくわかりません。でも、まとめて捨ててあったのなら、叔母さんの物である可能性が高いでしょう。もちろんランパたちは、そこの収容者を調べてくれました。収容されていれば叔父さんたちを出すつもりでしたが、残念ながら該当する人は見つけられなかったそうです。よそに移送されたかもしれないし、処刑されたり病気で死んでしまったりする場合もあるとのことでした。よって表面上は生死不明なのですが、持ち物が捨てられていたということは、亡くなっている可能性のほうが高いそうです。というのも、普通、収容所へ入るときには、すべての持ち物を所員に取り上げられてしまうのです。取り上げた物は、たいてい幹部たちが私物化してしまうのですが、叔父一家の物は捨てられていたということですから、つまり私物にならなかったという意味になります。なぜか。叔父たちが、物を奪われる前に亡くなっていたからでしょう。死者の物を奪うのは、どこの国の人も忌み嫌いますからね。収容者に名前がないのも、それで説明できるそうです。正式に収容される前に亡くなってしまったのだ、と。それでも、完全に望みがなくなったわけではありません。辛抱強く待ち続けたいと思います。華国はいよいよ内戦が激しく、大変な時期にあると聞きました。バートルさんは、まだ国境を越えて羊毛を売りにいったりしているのでしょうか。危険ですので、くれぐれも気を付けてくださいとお伝えください。
 もしかすると、しばらく手紙を書かないかもしれません。ランパたちが、命がけで手紙を届けることを楽しんでしまうかもしれないから。それでケガや、もっと非道《ひど》い目にあったりしたら、僕は耐えられません。
 サラン。どうか、どうかお元気で。君に会える日が来ることを僕は信じています。みなさんの健康をお祈りしています。
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